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 本邦当局は2%のインフレ目標を掲げており、そのために賃上げが不可欠としているが、最近話題になっている働き方改革や働き方の多様化に向けた所得税の控除縮小はどれもその反対方向に突っ走るものである。賃上げからインフレへの波及経路は、人々の所得が増えて手元のお金が増えると買える物が増えるというこの上なくシンプルなものだ。

所得税、増税は年収いくらから? 会社員の控除縮小へ

政府税制調査会(首相の諮問機関)は20日、税務手続きの電子化と所得税改革を柱とする中間報告をまとめた。働き方の多様化を踏まえ、会社員らに適用する給与所得控除を誰もが対象の基礎控除へと「ウエートをシフ

働き方改革、「残業代が8.5兆円も減る」の衝撃 | 国内経済

いわゆる「働き方改革」関連法案に関連して、これまであるようでなかった試算を、大和総研のエコノミスト・小林俊介氏が最近公表し、大きな反響を呼んでいる。「仮に罰則付きの残業上限が導入されれば、所定外給与...

 サラリーマンの経費は本来もっと給与所得控除などよりもずっと多い。社畜業をやって給料をもらうためでなかったら、大半の人はわざわざ都内で高い家賃を払って住まないし、スーツや時計も買わないし、ゴルフセットを買ってゴルフにも行かないし、話題作りのためにお店を開拓もしないだろう。220万などでは到底済まない。ゴルフコンペの朝に上司を迎えに行くために車を買ったのなら、自営業のベンツ社用車よりもずっと経費らしいではないか。

 控除のあり方について決める立場でないのでこれ以上熱く語っても仕方がないが、とにかくこの増税で可処分所得が減ればインフレへの道は遠ざかる。また、共働きカップルは子供ができるまで結婚を引き延ばすのが正しい行動となるので結婚率にもネガティブな影響を与えるだろう。

 残業代の減少は年間3%の所得減というから、さらにダメージが大きい。本来、残業に全て残業代を付け、一切の形のサービス残業に罰則を付けて厳格に運用するだけで十分であり、その上で経営陣が従業員に残業させるかどうかは資本主義の論理によって決定される。

 生産性が上がっていて、こなした仕事が変わらないのなら残業代がもらえなくても賃金は減らないはずだが、生産性が上がるのは賃金が上がる必要条件であって十分条件ではなく、賃金が上がるには前向きの人事評価制度が必要である。今のところ、会社員にとっては残業代と転職以外で所得を上げる手段はないので、残業時間が短くなるとその分の所得が減るだけだ。なぜ街を歩くサラリーマンが殺伐としているのかというと、残業代によって時間に値段が付いているからだ。大企業の社員なら通勤途中で1分間無駄にすると数十円取りそびれる。減点法の職場なら仕事を頑張ってもボーナスは増えないので、悲しいことに1分間残業を長くする以外でその数十円を稼ぐ手段すら存在しない。それだけ、残業代はかけがえのないものなのだ。副業を解禁したところで、ほとんどの会社員はネット上で労役を提供して最低賃金未満を稼ごうとして更に搾取されるのが関の山で、残業代より効率よく稼げる手段はない。

 さらに、そもそも仕事が多い職場では残業阻止のために様々なストレスが発生する。仕事の持ち帰り。デスクトップPCを消して私用PCで作業。理由を付けてPCを落とさずに帰って翌朝適当な時刻を申告する。聞いた中で最もあほらしい事例は出張を使って出張先のホテルで仕事をさせるというものもあった。そこまでやらされて残業代=所得が減るのなら士気が上がりようがない。

 残業しなく済むようになったと言っても、所得が減るのでその時間に飲み歩くわけにもいかず、結局家で無為に過ごすだけになる。この失われた8.5兆円も消費から蒸発するだろう。内需型経済への道は遠い。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。