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 海外で何らかのショックがあると、日本株は急落することが多い。例えば米株指数が3%下がっている時に日本株指数は平気で4%, 5%下がることがあり、往々にしてショックの発生国よりも売り込まれることがある。これを説明するのに、海外の投機的参加者が多いだの日本企業の収益力を持ち出す人も多いが的外れである。
 
 これは「米株が急落するとドル円も下がることが多いため、円建て日本株の下落率はドル建て米株の下落率より大きくなる」というシンプルな話だ。たとえば、3/22のスーパー301条ショックでは、S&P 500は2.5%しか下落しなかったのに翌23日のTOPIXは3.6%も下落した。しかし、投資家にとって「どちらに投資すればよかったか」は同じ円で評価しなければ意味がない。もしS&P 500を保有していれば、ドル建てで2.5%やられた後に、その1米ドルの価値が3/22 15時の105.9円から3/23 15時の104.8円と、更に1%強も縮んている。結局、日本人投資家から見て、S&P 500に投資していてもTOPIXに投資していてもリターンはほとんど変わらなかった(厳密には時間差を考慮して先物なりCFDなりで比較しなければならないが、そもそも米株が何%下がった日に日本株が何%下がったという議論の時点で時間帯の差は考慮されていないのでここでも考慮しない)。もちろん、米ドル建てで比較するなら双方を104.8で割るだけなので、米国投資家から見ても同じだ。

 我々は単位が異なる数値を比べることに意味がないと義務教育で習っているはずだが、投資では往々にして異なる通貨建てで株のパフォーマンスを比べてしまう。これが某新興国が株価が50%上がって通貨価値が50%毀損した場合を想像した場合、全く喜べないのはすぐに理解できるのだが(現に通貨が暴落しているベネズエラの株式指数は過去1年で146倍になっている)、我々はあまり海外株に投資しておらず、また暗黙のうちに円安をも歓迎する習性を身につけているので、それぞれの通貨建ての株価の方が実感に近いのだろう。
S&P 500 JPY
円建てで比べたS&P 500とTOPIX
1557 JPY
東証上場のS&P 500連動ETF【1557】とTOPIXも同じ傾向を示している。念のため。

 先週だけでなく、この1年間でTOPIXと米株S&P 500を円建てで比較しても、実はトランプ減税とやらがあったにもかかわらず、TOPIXの方が勝っている。自国通貨建て数字では米株の方が上がっているように見えるが、ドル安がリターンを引き下げている。もちろん「その通貨安株高の組合せが羨ましいのだ」という声もあるだろうが、為替政策の良し悪しは別の問題だ。

 2017年の日本株のパフォーマンスは円高の割りには決して弱くなかったと言える。「米企業と違って円高は日本企業の減益要因」なら、円建て米株よりさらにアンダーパフォームしなければならないが、そのような値動きは観測されなかった。
10 years
 せっかくなので過去10年まで振り返ってみると、2010年は両者ともに似たようなパフォーマンスだった。2011年の東日本大震災でTOPIXがやや劣後。そしてアベノミクスで円安が始まって以来、日本株は米株に大きく引き離された。大きく円安になった割りには日本株は上がらず、日本株に投資するよりも円建てで米株に投資した方が遥かに良かったわけだ。幸い2016年以降は引き離された後の割安感もあり、日本株が相対的に持ち直している。逆説的だが、ドル円が1%上がった時に日本株の上昇幅は1% +αでなければならず、1%未満ならドル建てでやられている。このハードルはそこそこ高いので、同じ株投資ならむしろ円安を見込むならオープンで米株に投資し、円高を見込むなら日本株に投資する方が良いとすら言えそうだ。

 なお、日本株最弱のイメージを作ったもう一つの要因として、トランプ当選ショックなど、リスクオフのきっかけとなった大きな投票イベントの開票が「米株現物がクローズしており日本株だけやっている」日本時間にずれ込むことが多かったため日本株の底が深く見えるという現象もある。もし米株現物ではなく24時間やっている米株先物のチャートを引っ張ってくれば、日本株と同じくらい深い谷を掘っているはずだ。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。