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 世界の株式市場を揺さぶった米中貿易戦争がようやく停戦を迎えそうだ。ここでこの貿易戦争騒ぎについて振り返ってみたい。
 
 貿易戦争リスクが顕在化したのは、トランプ政権が3月初旬に鉄鋼、アルミに関税をかけると発表してからである。4月には500億ドル分の中国製品リストを挙げて追加関税を課すと米国が発表し、中国も対抗措置を発表して「最後まで付き合う」と宣言し、さらに米国がそれを1000億ドルに拡大し、一時全面対決の様相を呈した。米株はおそらく2018年で最も困難な時間帯を迎え、中国による報復の米国債売り崩しなども取り沙汰された。中国はフルラインの製造業を国内で揃えており、市場の大きさという優位性も持っている。さらに国防を米国に依存しているわけでもないので、貿易戦争では日米の時と違って必ずしもどちらかが不利とは言えないという声も多く、だからこそ全面的な貿易戦争に発展するリスクが高かった。しかし、4月中旬になると状況が一変する。

 イランへの米国の制裁に違反したという理由で、米国政府は中国の通信機器大手ZTEへの米企業の部品販売の7年間の停止を命令したのである。ZTEは次世代通信規格・5Gで欧米勢と主導権争いを繰り広げてきたが、スマートフォンなどの製品の中核部品をクアルコム、マイクロソフト、インテルに依存していたため、即座に実質的な業務停止に追い込まれた。「中国すごい」の中核の一つだったZTEがわずか一撃で倒れたことにより、本格的な貿易戦争になった時に中国はとても米国に立ち向かえないことが明らかになった。日本もイランへのイギリスの制裁を破ったことがあり(日章丸事件)、またイランへの制裁はその後一回撤廃されているので、制裁に違反することは道義的に悪と決まっているわけではないが、ZTEの場合、米国政府に対して虚偽の説明を繰り返すなど同情を引きづらい行動が目立った。

 5月になると北京での5/3-4の米中通商協議に先立ち米国政府は中国に対して、貿易黒字削減の数値目標として2000億ドルを新たに設定し、中国は報復措置を取らないこと、中国は「中国製造2025」産業育成計画への補助金を撤廃する、また数値目標に向けた成果の確認を四半期ごとに行うことなど、ハルノートともポツダム宣言とも言える要求書簡を突きつけた。「中国への米企業投資への制限を撤廃する一方で米国企業への中国企業投資に米国が制限を課することに異議を申し立てない」というダブルスタンダードを何の恥じらいもなく盛り込み、また「WTOへの提訴を取り下げること」などと、一応WTOルールでは負ける自覚があるのかと突っ込みどころ満載だったが、「19世紀的な不平等条約」を突きつけられても、ZTEという人質を押さえられていた中国からの反発も反応もほとんどなかった

 そして先日終わったワシントンでの第2回の米中通商協議ではようやく米中共同声明が発表されている。2000億ドルの数値目標こそ盛り込まれなかったものの中国は米国からの輸入を「大幅に減らす」としている。知的財産などでも中国側の無条件降伏となった。そして貿易戦争と関税はとりあえず回避となった。ZTEについては先立ってトランプ大統領が制裁緩和をほのめかしていたが特に言及がなく、依然米国政府が生殺与奪を握っている。代わりに中国製造2025への干渉も取り下げられた。さすがに赤の他国の産業政策に正面からやめろとは言えないだろう。

 ここで気になるのはトランプ政権の真意である。ZTEを含む中国ハイテクを潰して米国の優位性を保つのが狙いなのか、それともそれをただの人質にしてただアメリカ製品を売りつけたいだけなのか。この2つの仮説のどちらが正しいのか、に対する市場参加者の観測の揺れは4〜5月の株の乱高下に直結していた。実際その時の担当者によってトランプ政権の方も揺れていたかもしれない。後者なら資産価格にはサポーティブだが長期的には米国のためにならない。なお2000億ドルという数字は「ボーイングが毎年生産する航空機のうちの9割、または米国の農産物輸出総額の1.4倍、または米国で生産された原油の全部」にあたる。これらを失業率がこれだけ低い中でどうしても中国に売らないといけないのか。これだけの商品を無理やり中国に運び出し、代わりにドルを回収するとインフレになるのではないか。「具体的な手法については改めて協議」とまとまりづらかったのは、現に2000億ドルも減らせる手法など存在しないからだろう。これは米国に産業競争力がないことを意味していない。兵器など中国が買いたい物を軒並み輸出禁止にしているからだ。ただ、今はとにかく「米国製品を売りたいだけのトランプ大統領」像が復活し、追加関税の中止が材料視されるだろう。




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