金利とセンチメントから資産価格を考えるブログ

毎朝更新の予定。主に日米金利、ドル円、先進国株インデックスについて。視点は経済指標、地政学、センチメント、需給、テクニカルなどもろもろ。@shenmacro

カテゴリ:レポート記事 > 北朝鮮

 北朝鮮が全ての説得や圧力を跳ねのけて核戦力保有に突っ走る原動力について、TV番組でも金正恩はサダム・フセインやカダフィの轍を踏むのが怖いからという話を見るようになったので、まだ陰謀論の感がなくもないが三連休にこの二人について調べてみようと思う。
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1983年、国交正常化の特使としてイラクを訪問したラムズフェルドと握手するサダム・フセイン。
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2009年のローマG8にて、西側に溶け込もうとするカダフィ大佐。
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北朝鮮問題における米中のトラウマ (1) : 金利とセンチメントから資産価格を考えるブログ

北朝鮮はICBMに続いて水爆実験にも成功し、完全に米中の二大国を翻弄した。ここで、米中ともにろくに動けなくなった理由となっているそれぞれのトラウマについて書いてみようと思う。 米軍のトラウマは当然朝鮮戦争である。1950年6月25日に突如始まった北朝鮮軍の南進に対


 元々「同じ民族が停戦ラインに沿って分断された国家のうちの東側」である北ベトナムは北朝鮮と似たような立ち位置であり、ベトナム戦争でも中国は軍事物資と顧問団の双方を送り込んで北ベトナムを支援していた。しかし、中国はソ連との関係悪化からベトナム戦争の最中から対米接近を図り、1972年2月にはニクソンが訪中している。後世から見るとニクソン訪中は「戦争終結のため」と軽く言えるし、中国もベトナムでの軍事的プレゼンスをディールの材料として十二分に活用できたが、北ベトナムから見ると空爆で苦しんでいる時の米中接近は中国の裏切り行為に他ならなかった。結局、(反戦運動に毒された我々のイメージとは異なり)米軍の北爆と米中接近で四面楚歌になった北ベトナムは1973年1月にパリ協定に署名し、南北統一を諦めて停戦に同意する。この時も、さらに1954年にフランス軍を追い出した後にジュネーブ協定で17度線を初めて引かれて南北分断された時も、中国は北ベトナムに西側に妥協するように説得していたという。
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 北朝鮮が安定国家であることがわかると、米中がそれぞれ北朝鮮問題で慎重に動いてきたことも理解できる。北朝鮮は7/28の深夜にも「火星14号」の発射を行い、着々とICBMの高度と飛距離を伸ばしている。

そもそも北朝鮮がミサイル実験にこだわる理由

 まず、北朝鮮が何がしたくてICBM開発に急いでいるのか。金一族はチャウシェスク、サダム・フセイン、カダフィ大佐の末路を見てきた。米国政府によってテロ支援国家と悪の枢軸に指定されて以来、彼らのように米国にアラブの春されないことが金一族の至上命題であり、米国に政府転覆しない確約を求めて絶えず直接対話を要求してきた。中国が主催した六カ国協議(死語)は、テロ支援国家指定の解除には役に立ったものの、米国から確約が得られなかった以上北朝鮮としてはあまり意味がなかった。途中で反米と核開発をやめてもやはりアラブの春されるのはカダフィ大佐を見れば明らかであり、そのような選択肢はない。残る選択肢は米国本土攻撃能力を持つことによって米国を威嚇することしかなかった。

誰もミサイル実験を止められなかった理由

 ICBM発射実験が着々と進む中、中国はなぜ北朝鮮への圧力をほとんどかけられなかったのか。一つは実際に打つ手がない。親中派・張成沢の処刑以来、中国は北朝鮮との対話のパイプをほとんど失っている。経済制裁だけを一国で行っても直接的にミサイル開発を止められるわけではなく、恨みを買うだけで終わる可能性が高い。フルシチョフによる中国の核開発阻止の試みの結果を思い出す。

 また、中国は伝統的に内政干渉に対して本能的な嫌悪感を抱いている。明治日本による朝鮮国の開国要求に対する清の反応が最も今の中国政府の心情に近いと思われる。韓国でのTHAAD配備や南シナ海での航行の自由作戦は続いており、そもそも米国は(経済はともかく)国際政治で助けるべき味方ではない。取引するにしても、中国からしたら台湾への武力行使の際の不干渉くらいを取り付けないと割に合わない。取引好きのイメージに反して、中国が近代以来国際政治で大掛かりな取引を行ったのは、米中関係正常化に際して米国が支援するポルポトのために共産ベトナムに武力侵攻し、東側との対立姿勢を見せつけた一件だけである。

 さらに、結局は米軍が単独で北朝鮮を軍事攻撃できないと踏んでいる可能性が高い。中東やアフリカの独裁政権と異なり、北朝鮮は腐っても東アジアの安定した軍事国家である。山岳部が多い国土で何十年も戦時体制で展開している軍に対し、空母機動部隊を一つや二つ動かしてトマホークを100発や200発打ち込んだところでかすり傷にしかならない。金正恩をいきなり暗殺したところで、パレードを見てもわかるように統率が取れたあの軍はすぐ瓦解するというよりは敵愾心を持って反撃に出るのではなかろうか。さらに中国が隣で睨みをきかせている。中国軍が再び北朝鮮の味方をして介入してくる可能性は極めて低いと思われるが、何しろ前回の朝鮮戦争で介入して米軍を主力とする国連軍に辛勝したという強力なレガシーがある。

本来なら今が武力攻撃のタイミング

 とはいえ、とっくの昔に親中でなくなった北朝鮮の戦力向上は特に中国の国益にならないため、中国としては何か策を弄したというより、本当にただ動きづらかっただけに見える。米国にしても、北朝鮮軍と戦うのが怖いため中国にボールを投げて逃げていただけに見える。
 北朝鮮が大量破壊兵器開発で一線を超えており、なおかつ実質的にまだ米国本土に脅威を与えられない可能性が高い今が本来なら武力攻撃のベストタイミングである。米国民の大学生を殺害されたため大義名分も立つ。しかし、たとえ北朝鮮がICBMを保有していなくても、米軍が北朝鮮軍に対して勝算を持てるのか。これに対する米国政府の判断に全てがかかっているが、個人的にはチキると見ている。

関係諸国の利害

 日本はむしろ、北朝鮮がICBMを保有したことによって安全度が増した気がする。北朝鮮は地理的な制約で日本の方角に向けてしかミサイル実験を行えないが、元々米国本土能力を追求していただけで日本とは別に紛争を抱えていてミサイル攻撃したいわけではない。金正恩が非理性的な指導者だったら意味もなく日本を攻撃する可能性はあるが、経済運営を見ているとそうでもないようだ。有事の時に米国本土に届かないから仕方なく日本の米軍基地に弾道ミサイルをぶっ放す、というシナリオもICBM保有によって薄れてくると、(こちらからちょっかいを出さない限り)日本はそもそも北朝鮮との関わりが遠くなる。韓国は武力統一されるリスクがやや増えたが、北朝鮮の経済が順調である限り武力に訴え出る可能性は低い。中国はトランプの心証が悪くなったためやや損した。期待もされず注目もされなかったロシアにとっては極東の不安定化が国益であり、日中韓と異なり自らは安全圏にいるため、北朝鮮のICBM開発成功は明らかにロシアにとって喜ばしい。日本政府にとっても有事は支持率挽回に役立つため喜ばしいだろう。

相場へのヒント

 ここまで政治。相場的には、ないと思うがもし戦争になったらとりあえず株売りドル円売りだろう。東日本大震災の時を含め、日本が何らかのダメージを受けたという理由で円が売られたのをまだ見たことがない。 KOSPI
 また、今回の騒ぎでKOSPIが強力な効率市場であり、北朝鮮の動きを先回りして動いていることがわかった。米空母が日本海にやってきてもどうせ何もないと読み切りビクともしなかったKOSPIが、今回は予兆的に売られている。次にKOSPIが暴落した時は、また北朝鮮関係でシリアスなニュースが出るだろう。KOSPIの海外保有率は3割台で、海外勢にしろ本土勢にしろ、朝鮮半島を本気で分析している人たちが集まっていると思われる。
この記事は投資行動を推奨するものではありません。


 我々のイメージとは裏腹に、北朝鮮の経済は西側諸国からの経済制裁にも関わらず極めて堅調である。

North Korea's Economy Is Growing at Its Fastest Pace Since 1999

North Korea's economy grew in 2016 at the fastest pace since 1999, helped by a recovery from a drought in 2015. Military spending, including on testing nuclear weapons and missiles, also boosted growth, and raised tensions in the region. Gross domestic product expanded 3.9 percent from a year earlier, according to an estimate from the Bank of Korea.

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 Bank of Koreaによると、北朝鮮の2016年GDP成長は+3.9%と、韓国よりも高かった(もっとも一人当たりGDPの絶対値ではまだ韓国の4.5%にすぎない)。父親や祖父の時代で有名だった飢饉も、近年ほとんど聞かなくなった。もっとも今年は干ばつに見舞われており、食糧難に陥る可能性が取り沙汰されている。

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 FTの記事はさらにべた褒めである。首都平壌の道路には自動車が走り、建物も増えている。エアコンや太陽光パネルも使われ始めた。Donjuと呼ばれる富裕層が増え始め、タワーマンションがたくさん建設されたのも報道されている。一時そのタワーマンションを衛星写真で見ると壁一枚しかないハリボテだったとする記事が日本で出回っていたが、その後使われた衛星写真が別の場所を写したものであり、嘲笑記事はガセでありタワーマンションはちゃんと実在していることが判明している。

 順調な成長は金正恩が父親や祖父が恐れていた自由経済を黙認した結果である。脱北者を支援するNPOであるLiberty in North Koreaも、北朝鮮は「厳しく統制された社会主義経済体から基本的に市場化された経済体に」変化していると認めている。父親や祖父の残したイデオロギーに反するため国有メディアがほとんど触れることはないが、金正恩は民間企業による利益追及のビジネスを史上初めて放任している。民間企業は非公式な存在で、通常富裕層が賄賂を使って利権を政府から買い、自由に経営し、収益の30%程度を政府に税金のような形で上納している。工業や農業においても担当者の権限を拡大している。政治的自由は相変わらずゼロだが、それと自由経済の組合せは中国やベトナムと同じモデルであり、東アジアでは珍しくないし成功例の方が多い。もっとも、海外からの信頼はゼロなので、今のところ北朝鮮への海外投資は中国の同じ民族からのものがほとんどとのこと。

 金正恩は明らかに、粛清は得意だが戦争が下手だった祖父や、精力的に活動した割に成果が上がらなかった父親よりも指導者として優秀である。粛清もないに越したことがないが、軍の指導者を好き放題に粛清できるということは、軍をほぼ完璧に掌握できていることを意味する。東アジアでは安倍政権と並ぶ珍しい安定政権とすら言えるかもしれない。ただの瀬戸際に追い込まれているキチガイのように捉えると、きっと関係諸国の北朝鮮の扱い方に色々と納得できないだろうが、それは自分の方が色々と誤認している可能性が高い。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。

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